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アメリカの国際相続を円滑に進めるための方法を国際弁護士が解説

2023.9.12 国際相続

アメリカの国際相続とは

国際相続とは、被相続人や相続人、相続財産に海外の人やモノが関係する相続を言います。

アメリカの国際相続には、「プロベート」「州によって法律が異なる」「様々な対策方法がある」といった特徴があります。

 

 

1 プロベート

アメリカでの相続では、原則としてプロベートを経る必要があります。プロベートとは、日本のように相続人が主体となって相続を行うのではなく、アメリカの州裁判所の手続の中で、遺産の人格代表者(Personal Representative)が選ばれ、財産の管理、整理を行った上で相続人に分配するという制度です。


プロベートの具体的内容は、こちらのページをご覧ください。

2 州によって法律が異なる

日本の相続であれば、日本の民法のみを見れば相続が分かるのですが、アメリカは各州によって法律が異なります。どの州の法律が適用になるのかは、財産の所在地や、被相続人の所在などによって変わります。

州によっては、プロベートの手続方法が異なったり、法定相続分が異なったりすることもあります。

プロベート手続の具体的なトラブル事例については、こちらのページをご覧ください。


3 様々な対策方法

アメリカには日本に存在しない様々な制度があり、多様な相続対策方法が存在します。

まずは、以下でその対策方法について説明します。

 

【パターン別に解説】プロベートを回避して国際相続を進める方法

パターン① アメリカ不動産のプロベートを回避

Transfer On Death Deed

• Transfer On Death Deed(TODD)は、死亡時譲渡証書といい、所有者の死亡時に、対象不動産がプロベートを経ず、予め指定した受取人(Beneficiary)に譲渡できる制度です。
• 受取人は、不動産所有者の名義変更手続を行えば、アメリカでの相続手続はこれでクリアでき、あとは日本の相続法、相続税法に従った手続を行えばよいということになります。
• ただし、アメリカの州によってはTODDが制度として存在しない州もあります。その場合は、他の方法でプロベートを回避する必要があります。

 

TODDについて詳しく知りたい方は、こちらのページをご覧ください。

 

パターン② アメリカ銀行口座のプロベートを回避

Payable On Death

・Payable On Death(POD)は、死亡時支払制度といい、口座名義人の死亡時に、プロベートを経ず、予め指定した受取人(Beneficiary)が銀行口座残高の支払いを受けられる制度です。
・ただし、返金の際、金融機関によっては、米ドル建ての小切手(Check)しか発行してくれないところもありますので、確実に払い戻しを受けるための詰めが重要です。

PODの具体的内容については、こちらのページをご覧ください。

 

 

また、プロベートという面倒な手続きが発生する前に、生きている間に海外の銀行口座を解約して、日本に送金することもご検討ください。海外銀行口座又は証券口座の解約については、こちらのページをご覧ください。




パターン③ アメリカ証券口座のプロベートを回避

Transfer On Death

・Transfer On Death(TOD)は、死亡時譲渡制度と言い、TODDやPODと同様、証券口座の所有者が、予め受益者(Beneficiary)を指定しておくことで、死亡時に、プロベートを経ることなく口座を譲渡できる手続です。
・ただし、日本人(アメリカ非居住者)が開設した証券口座だと、TODを受け付けてくれない証券会社もあるので注意が必要です。

また、プロベートという面倒な手続きが発生する前に、海外の証券口座を解約して、日本に送金することもご検討ください。ただし、海外証券口座を放置しておくと政府に移管されることがあります。その場合の対応については、こちらのページをご覧ください。


以上、アメリカ不動産、銀行口座、証券口座のそれぞれについてプロベートを回避する方法をご紹介しました。詳しい内容をさらに知りたい方は、こちらのページをご覧ください。

パターン④ 米国で不動産を買う場合

米国不動産を買うのは個人?法人?

米国不動産を個人で購入して亡くなると、プロベートという米国特有の相続制度が適用されます。これを回避するための「購入後に」行えるTODD手続については、パターン①で述べました。 これをもう一歩進めて、個人で所有するのではなく、法人で所有をすることでプロベートの適用を回避することができます。また、税金面からみても、建物価値について4年で償却できるという魅力があります。

法人での所有パターン

法人で米国不動産を所有する場合、具体的には、
①日本法人で米国不動産を購入する、または
②現地LLC(Limited Liability Corporation)で米国不動産を購入する
というパターンが考えられます。

①の場合は、日本法人の株主である日本人が死亡したとしても、日本法人の株式についての相続が発生したに過ぎず、当該株式の相続はあくまで日本法が適用されるのみとなりますので、プロベートを回避する方法として有用です。

一方、②はどうでしょうか。LLCは、①と異なり、現地LLCの持分を有するオーナーが死んだ場合、LLCの持分について米国内で相続が発生したとして、プロベートが適用されるリスクがあると一般的に言われています。

そこで、LLCのOperating agreement(運営契約)で、予めLLCのオーナーが死亡した時に、個人やトラストなど、誰に自動的にその持分を承継させるかを定めておくことにより、プロベートの適用を回避する必要があります。既にLLCを通じて米国不動産を所有されている方は、Operating agreementを見直し、プロベートに対応した定め方をしているか確認してみてください。

法人でアメリカ不動産を購入又は売却する場合の手続、留意点について、こちらのページもご覧ください。


パターン⑤ カリフォルニアの銀行口座を相続する方法

生前にTODDやPODを設定することで、プロベートを回避する方法をご紹介してきましたが、カリフォルニア州に銀行口座が存在する場合には、事情が少し異なります。

少額のカリフォルニア銀行口座を相続する方法

カリフォルニア州では、少額の資産であれば、短期間で相続できる方法として以下2つの手続が用意されています。

(1)宣誓供述書による方法(Small Estate Affidavit)

遺産の合計価額が166,250ドル(2022年4月1日以降の死亡の場合は184,500ドル)以下の場合には、相続人による被相続人の死亡証明書等を添付した宣誓供述書の作成によって、プロベートを回避して相続することが可能です。 ※ただし、この手続は不動産の相続には使用できません。相続財産に不動産が含まれる場合、次の(2)の方法を検討することとなります。


宣誓供述書は公証(notarization)を行うことになりますが、最近普及しているオンラインによる公証手続については、こちらのページをご覧ください。



(2)請願書による方法(Small Estate Probate Procedures)
遺産の合計価額が166,250ドル(2022年4月1日以降の死亡の場合は184,500ドル)以下の場合には、裁判所に不動産の鑑定書等を添付した請願書を提出することによってプロベートを回避し、裁判所の決定によって不動産等の相続財産を取得することが可能です。

以上の手続は、プロベイト手続に比べれば、相続までの日数や費用を大幅に削減することができます。ただし、対象銀行の窓口担当者との直接のやり取りが生じ、必要書類を様々求められることが多く。そのため、日本国内に居住される相続人の方のみで行うには大変な困難が生じます。

パターン⑥ リビングトラストその他の方法でプロベート回避 

不動産や銀行口座、証券口座については、プロベートを回避する法的手続が用意されています。しかし、前述したように、TODDの制度がない州の不動産を購入した場合や、証券口座を有していてもアメリカ非居住者であるためにTODの手続を行えないこともあります。そのような場合も含めて、以下のプロベート回避策も考えられます。

リビングトラスト

撤回可能信託(リビングトラスト、Revocable living trust)を作成し、不動産、銀行口座、証券口座を一律に信託名義に変更して(Fund)、プロベートを回避することが考えられます。

リビングトラストの多くは、自身が信託設定者(Settlor)であり、かつ生存中は自身が受託者(Trustee)でもあります。そして、自身が亡くなった時のために、承継受託者(Successor trustee)を信託の中で指定しておきます。実際に受託者が死亡したときは、承継受託者がその権限において不動産の売却や金融機関への照会、納税等を行って、受益者(Beneficiary)への遺産の分配を行うこととなります。

ただし、リビングトラストの作成には現地の弁護士のアドバイスが必要ですし、承継受託者には様々な義務が生じることもあるため、注意が必要です。

トラストによる相続手続については、こちらのページもご覧ください。

ジョイント・テナンシー

TODD以外の法的手続としては、そもそも不動産購入を夫婦等で共同して行い、ジョイント・テナンシー(Joint tenancy)という形で所有することでプロベートを回避することも可能です。

ジョイント・テナンシーは、一方が死亡した場合に、他方に完全な所有権が帰属する生存者権(Right of survivorship)が付されている点に特徴があります。 なお、生存者権が付されていない共有の形態としてTenancy in commonというものがあります。この場合、持分を有している者が死亡したときには、当該持分についてプロベート手続になるので注意が必要です。

 

まとめ

以上、煩雑なプロベートを適法に回避する方法をパターンごとにご紹介させて頂きました。どの方法も、メリット・デメリットがあり、アメリカ資産を保有されている方の意向によっても変わってきます。より詳しくお知りになりたい方は、こちらのページをご覧ください。



国際相続の手続きは弁護士と税理士のどちらに頼むべき?

弁護士に頼む場合

先ほど記載したように、アメリカの国際相続で重要になってくるのは、相続をするに当たり、プロベート手続が開始されるかどうかです。そして、プロベートが開始されるかどうかは、相続財産の種類(不動産の有無等)、相続財産の金額、相続財産がどの州に所在するかなどにより決まります。そもそも問題となっている国際相続でプロベートが始まるか否かが分からない場合、まずは国際相続に強い弁護士に依頼するべきです。

税理士に頼む場合

例えば、一部の相続人がアメリカに居て、既にアメリカでの相続が進行し、特にその手続や結果について問題が生じていない時には、税理士に頼み、国内での相続税に関して相談するべきと思います。ただし、国内のみの相続案件とは異なり、かなり特殊なケースとなりますので、国際相続に強い税理士を探すことをおすすめします。

なお、弊所では、国際相続の依頼をしていただいたお客様に、国際相続に強い税理士を紹介することが可能です。

アメリカの遺産税については、こちらのページをご覧ください。

国際相続手続を進めるうえでの注意点

アメリカの弁護士との連携

プロベートは米国の裁判手続になるため、基本的にアメリカ弁護士との連携が必要となります。

さらに、米国は各州によって法律が異なるため、アメリカ弁護士であれば誰でも対応できるわけではありません。例えば、ニューヨーク州の弁護士に対して、カリフォルニア州のプロベート手続の対応を依頼しても望ましい結果を得ることは難しいです。

弊所では、国際的な弁護士ネットワークを使い、アメリカ各州の弁護士とお客様を繋ぐことが可能です(イギリス等のアメリカ以外の弁護士を紹介することも可能です。)。

海外の弁護士と連携できる弁護士に依頼する

上で述べたようにアメリカの国際相続では、適用される州法を見極め、その州の弁護士に依頼をすることが必要ですが、その弁護士とやり取りをするのは基本的に英語となります。弁護士を選ぶ際には、海外の弁護士と人脈を有し、英語でのコミュニケーション力を有する弁護士を探す必要があります。

国際相続に関するFAQ

Q 依頼した場合、報酬や費用はどの程度になるの?

A プロベート手続の有無、手続の難易度等によって変わります。正式なプロベート手続を行う必要がある場合、現地の弁護士費用のみでも相当な額となります。一概に言えませんが、現地の弁護士と連携する場合、100万円を超える場合が多いです。

なお、報酬や費用が高額になる場合には、一定額を着手金としてお支払いいただき、残りは実際に遺産を受け取った後にお支払いいただくことも可能です。

また、実際に弁護士が稼働した時間分のみで報酬を計算する方法(タイムチャージ制)などをご提案させていただくことも可能です。

 

Q そもそも、どの程度の相続財産になるのか分からないのですが、依頼できますか?

A 可能です。むしろ、ほとんどのお客様が、最初は相続額が分からずに依頼に来ています。

ある程度の額が見込まれるのでしたら、当初から本格的に相続手続を始めても良いですし、最初は調査のみ依頼し、ある程度の遺産額が見込めるようになってから、本格的に相続手続を始めることも可能です。

 

Q 依頼した場合、期間はどの程度になるの?

A プロベート手続の有無、手続の難易度等によって変わってきます。早ければ数か月で終わることもあれば、長ければ数年かかる場合もあります。

ある程度の予測はできますので、国際相続でお悩みの方は一度ご相談にいらしてください。

 

Q 依頼しても、自分でアメリカに行かないといけない場合があるの?

A 弊所にお任せいただいた場合には、お客様がアメリカに行く必要がなくなる場合がほとんどです。原則として、依頼者の方は弊所とのやり取りで手続が完結します。

もちろん、必要に応じて、アメリカで進行中の手続の状況や連携している現地弁護士の見解などを適時に依頼者の方に対してご説明しながら進めて参ります。

 

Q 依頼しても英語で何かしないといけないの?

A ご依頼いただきましたら、基本的にお客様が直接英語を使用する必要はありません。

一部、英文の誓約書などに署名していただくことはありますが、弊所で翻訳を用意するなどして、内容を日本語で説明した上、署名いただきます

 

Q 遺産が分配される時や、預金の払戻しをした時に小切手で来ると聞いたのですが、本当ですか?

A 必ずしも全件がそうではありませんが、アメリカは小切手での決済が一般的ですから、小切手が送られてくることが多々あります。

その場合には、弊所で連携する銀行をご紹介し、小切手の換金手続が円滑に進むようサポートいたします。

 

Q 海外に資産を所有しているのだけど、自分の死後に国際相続で問題が生じないか不安です。何か依頼できますか?

A 亡くなった際のプロベート手続の有無等について調査することは可能です。

また、生前の財産整理により、プロベートを回避する方法についてアドバイス及び手続をすることもできます。アメリカでは、このような財産整理を「エステートプランニング」と言い、中流層以上の多くの方はエステートプランニングを実行しています。

 

Q 夫がアメリカ人なのですが、夫に万一のことがあった場合、相続がどうなるのか見当もつきません。何かご相談できることがありますか?

A まずは配偶者の方のお持ちの資産を把握し、それらについて相続が発生した場合どのようになるのかを調査できます。

そこから進んで、相続対策のための財産整理(エステートプランニング)についてアドバイスや一部手続の代行等することが可能です。

 

Q 自分は日本国籍で日本在住なのですが、米国で生まれたため米国籍も有しています。自分が死んだ場合の相続について予め留意すべきことがありますか?

A 例えば、税務面ではアメリカ市民が被相続人となると、日本を含む全世界の遺産がアメリカ連邦遺産税の課税対象となります。

そのため、日本に所在する財産もアメリカの遺産税の申告対象となり得ます。

 

Q 海外に資産を所有している場合には国際相続の問題が生じ得ると聞いたことがあります。NYSE上場の米国会社の株式を日本の証券会社の口座で保有している場合にも、「海外に資産を所有」に当たるのでしょうか?

A 基本的には日本の証券会社の証券口座で保有していれば、日本のみでの相続手続によって手続は完了します(詳しくは所有する証券口座の管理会社へご確認ください。)。

他方、日本国内で契約したとしても、海外の金融機関を相手とする投資信託等の場合には、「海外に資産を所有」する場合に当たり得ます。実際、弊所でも相続人の方が依頼者となり、プロベート手続を現地の弁護士と連携して行ったことがあります。

 

国際相続の手続きなら中村法律事務所へお任せ

弊所は主にアメリカの国際相続案件について数多くの相談、受任をしております。

こちらのページに弊所のサービスのご案内を掲載しておりますのでご覧ください。

国際相続の手続きは弁護士へご相談ください – 中村法律事務所 (nakalaw.jp)

法律相談において、弊所のサービス内容について詳しくご説明させて頂きます。

 

 

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