国際相続(2)~プロベートを回避してアメリカ不動産を相続させる方法
2019.6.23 国際相続
アメリカ不動産の相続手続(プロベート)を回避する手続を、日本に住みながら、アメリカに行かずに、自分で行いましたのでここにシェア致します。
1 アメリカ相続制度の特徴
(1)プロベート(Probate)という日本にはない相続手続
アメリカ不動産を所有したまま亡くなると、たとえ日本人でも、アメリカの相続制度に従う必要があります。
◆日本は、包括承継主義:裁判を経ずに積極・消極財産全てを親族に包括的に承継させる
◆アメリカは、管理清算主義:裁判において管理・清算をした上で、積極財産のみ相続人に分配される
→英米法特有のこの裁判手続がプロベートです。プロベートの翻訳を「遺言検認」としている例が散見されますが、「遺産検証」と呼ぶのが正しいと思います。
(2)プロベートは費用、時間がかかる
プロベートにはアメリカの現地弁護士による手続きが通常必要となります。具体的事案にもよりますが、弁護士費用に200~300万円かかるのが通常です。日本の戸籍書類の翻訳作業も大変になります。
プロベート手続には2年間ほどかかり、その間遺産の処分換価できないため、お葬式や病院への支払等に遺産を使えません。
2 プロベートを回避して遺産を承継させる方法
(1)死亡時譲渡証書(Transfer On Death Deed)
・いわゆるTODと言われるもので、所有者の死亡時に、プロベートを経ず、予め指定した受取人(Beneficiary)に譲渡ができる制度です。
・アメリカでの相続手続はこれでクリアでき、あとは日本の相続法に従った相続手続を 行えばよいということになります。
→アメリカに不動産を残して亡くなったとしても、日本で不動産を持っているときの相続手続と負担は変わらなくなるメリットがあります(ただし、アメリカ遺産税はかかります)。
(2)具体的手続
日本国内の手続だけで完了、ご自身がアメリカに行く必要がありません!
私自身テキサス州に不動産を持っていますが、その不動産でTOD手続を自分で行いました。
具体的手続の流れは以下のとおりシンプルです。
①TOD formの記入
②在日アメリカ大使館・領事にて公証(notarization)
③不動産所在地を管轄する郡の書記官 (county clerk)にdeedを郵送で提出、費用支払(小切手の場合あり)
④登記が完了すると、郡から郵送で通知書が届く
実費は公証、登記費用、郵送等で2~3万円程度です。200~300万円かかるプロベートで2年間待つよりも合理的選択だと思います。
(3)手続き上のメリット
TODには以下のメリットがあります。
①本人が亡くなるまで譲渡の効力生じない本人が亡くなったら、受取人がAffidavit on deathを提出するだけ
②生存中に不動産を売ることができる
③TODのキャンセルもできる
④受取人は親族以外の人物を自由に選択可
⑤受取人が先に亡くなった時に備えて、代わりの受取人(alternate beneficiary)を記入できる
留意点として、相続税(アメリカは遺産税)が適用されること自体は変わりませんので、節税になる手続きではないことはご認識ください。
(4)その他の方法
・信託(Trust)はありますが、複雑で日本の裁判になったときの有効性に不安で、コストもかかります。
・不動産を合有(Joint tenancy)にして生存者権(right of survivorship)を使う方法もあるが、日本では贈与税と認定されるリスクがあります。
・よって、現行の制度からすると、TODがもっと経済的に合理的かつ法的安定性も高くお勧めであると言えます。
3 アメリカの預金
アメリカに不動産を持つと預金口座も開くことになりますので、不動産と預金口座のプロベート回避はセットで行うことが推奨されます。
預金口座についても、不動産のTODと同様の制度、POD(Payable on death)がありますので、この制度を利用できます。
煩雑なプロベートを適法に回避することで、ご家族が安心・迅速に財産の相続ができるよう、当事務所もお手伝いさせて頂きます。
何かお役に立てることがございましたらお声がけください。