国際相続(7)~米国遺産税
2020.10.26 国際相続
1 日本人が納める米国遺産税っていくら?
「米国で不動産や預金を持ったまま亡くなると、いくらの相続税(遺産税)がかかりますか?」という質問をよく頂きます。
米国の遺産税を計算する上で重要なのが基礎控除額の把握です。日本の相続法と同様に、米国遺産税にも基礎控除額があります。この点「セミナーで、日本人の基礎控除額は$60,000と聞いたことがあります。」とおっしゃる方がおられますが、これは誤りです。確かに、基礎控除額は米国の居住者(Domicile)かどうかで大きさが異なっており、米国非居住者には$60,000の控除額が設定されています。
基礎控除額(2020年) | |
米国市民、米国居住者 | $11,580,000(約12億円) |
米国非居住者 | $60,000(約630万円) →日米租税条約により控除額拡大 |
しかし、皆様、日本人という特殊性から得られているメリットを見逃してはいませんか?日本に居住されている日本国籍の方は、幸いなことに、日米租税条約によって米国遺産税の基礎控除額が拡大されているのです。
2 日米租税条約による控除枠の拡大
日本人にとっての基礎控除額は、以下の計算式により算出された金額になります。
$11,580,000×米国遺産税課税対象財産額/全世界遺産総額
つまり、被相続人(亡くなった方)が所有していた全資産のうち米国所在の割合分だけ、米国人と同じように控除を受けられるという制度になっています。例えば、日本に1億円、米国に1億円、合計2億円の資産がある場合、以下のように約6億円の基礎控除額となりますので、米国では遺産税はかかりません。
$11,580,000×1億円/2億円=$5,790,000(約6億円)
わかりやすく言うと、米国に資産を多く持てば持つほど、米国人と同等の基礎控除額が得られるようになりますよ、という制度です。このため、米国に資産を持ったまま亡くなったとしても、基礎控除額に満たない資産額であれば、米国で遺産税の申告をする必要はなく、日本での相続税申告をするだけで済むというシンプルな結論になります。
米国に不動産や預金をお持ちの方は、ぜひご自身のケースで基礎控除額がいくらになるか、それを超える資産を米国に保有していないかをチェックしてみてください。特に、ご高齢の方は、このコロナウィルスの状況下で何が起こるかわからない状況になっておりますので、相続税に備えた取り組みをご検討始められることをお勧めします。
※弊所は税務に関する専門家ではなく、税理士・会計士と連携してアドバイスをさせて頂いております。
3 そもそも日本人なのにアメリカで相続法の適用?
「そもそも日本人なのになぜ米国で相続法の適用を受けるのですか?」という質問も受けますので、この点補足をさせて頂きます。
日本人が米国で資産を保有するといった、国境を越えた個人の権利関係が存在している場合、どの国の法律を適用するかを定める国際私法(抵触法)によって適用される法律が決められます。米国にも日本にも、適用する法律を決める法律、があります(日本だと「法の適用に関する通則法」)。
ただ、これだと容易に考え着くように、アメリカの国際私法と、日本の国際私法を適用した時に相反する結論になることがありえます。例えば、米国不動産を所有する日本人が死亡した場合、日本の法の適用に関する通則法第36条は、相続は被相続人の本国法(日本法)によると定めています。一方、アメリカ州法の一部では、不動産が所在する地の相続法(米国法)が適用されると定められています。このように、日本法と米国法のどちらが適用されるのか結論が分かれるため、実務上は現地の米国法により相続の処理がされるという取扱いになっています。