アメリカの相続税と相続の仕組みについて解説
2023.8.8 国際相続
最終更新日 2025.4.3
目次
アメリカと日本の相続に関する違い
アメリカと日本で相続制度が異なるということ、皆さんはご存知でしょうか。
日本であれば、相続人同士で遺産分割協議を行います。通常は裁判所は関与せず、相続人間の話し合いがうまく行かなかった時に初めて、遺産分割調停という形で裁判所が関わってきます。
一方、アメリカでは、管理清算主義と言われる制度を採用しているため、相続人間の話し合いでは遺産分割ができず、裁判手続つまりプロベート(Probate)を経ることが必要とされます。
プロベートは裁判手続きですので、現地弁護士を起用して申立手続を行うことになります。そして、プロベート申立後は、裁判所により選任されたPR(Personal representative)が不動産や銀行口座へのアクセス、調査を行うことになりますが、やはり裁判手続きであるため、終了までに少なくとも1年半から2年はかかります。また、現地弁護士を起用する場合の費用が想定よりも高くなることもあるので、タイムチャージであればその費用体系等を事前に正確に把握、整理することが重要となります。
アメリカ相続税の基礎知識
日本の相続税は、相続人が相続割合に従って各自が相続税を支払う義務があります。ただし、3000万円+(法定相続人の数×600万円)が基礎控除額として認められるので、遺産額がこの数字を超えた場合にのみ相続税が発生する仕組みになっています。
一方、アメリカにも相続税(遺産税、estate tax)が制度としてありますが、相続人が支払うのではなく、遺産から支払われる仕組みになっているところに特徴があります。そして、被相続人がアメリカ市民やアメリカ居住者の場合には、$13,990,000(約20.6億円、2025年3月現在)の控除額が認められているので、アメリカの一般的な家庭での相続では、アメリカの相続税は発生しません。ただし、これは連邦の相続税についてのものであり、各州が相続税を別途課すことがありますので、州の相続税も忘れずに確認する必要があります。
そして、アメリカ人の相続のケースと同様に、日本人がアメリカに不動産や銀行口座を有していて死亡した場合にも、アメリカの相続税が発生しうることに注意が必要です。
アメリカ相続における基礎控除額
そこで気になるのは、日本人がアメリカに不動産や銀行口座を有していて死亡した場合に、アメリカ人と同じような控除が認められるのか、いくら控除が認められるのかという点です。
この点「セミナーで、日本人の基礎控除額は$60,000と聞いたことがあります。」とおっしゃる方がおられますが、これは誤りです。
確かに、アメリカでは、被相続人が日本人の場合、連邦の相続税控除が一定程度認められています。基礎控除額はアメリカの居住者(Domicile)かどうかで大きさが異なっており、アメリカ非居住者には$60,000の控除額が設定されています。
しかし、日本に居住されている日本国籍の方は、幸いなことに、日米租税条約によって米国遺産税の基礎控除額が拡大することが認められています。
基礎控除額(2025年3月現在) | |
アメリカ市民・居住者 | $13,990,000(約20.6億円) |
アメリカ非居住者 | $60,000(約885万円) →日米租税条約により控除額拡大 |
最新の控除額はこちらのIRSサイトにより入手可
日米租税条約による控除枠の拡大
日本人にとっての基礎控除額は、以下の計算式により算出された金額になります。
$13,990,000×米国遺産税課税対象財産額/全世界遺産総額
つまり、被相続人(亡くなった方)が所有していた全資産のうちアメリカ所在の割合分だけ、アメリカ人と同じように控除を受けられるという制度になっています。例えば、日本に1億円、アメリカに1億円、合計2億円の資産がある場合、以下のように約9億円の基礎控除額となりますので、アメリカでは遺産税はかかりません。
$13,990,000×1億円/2億円=$6,995,000(約10.3億円)
わかりやすく言うと、アメリカに資産を多く持てば持つほど、アメリカ人と同等の基礎控除額が得られるようになりますよ、という制度です。このため、アメリカに資産を持ったまま亡くなったとしても、基礎控除額に満たない資産額であれば、アメリカで相続税は発生せず、日本での相続税申告をするだけで済むというシンプルな結論になります。
日米租税条約に基づく申告書類、申告期限に注意
ただし、日米租税条約による控除を活用する場合でも、アメリカ内国歳入庁(Internal Revenue Service 、IRS)へのForm706-NAの提出等の申告自体は必要です。そして申告にあたっては、Form706-NAだけではなく、日米租税条約の適用を受ける旨の書面や日本・アメリカそれぞれの遺産の詳細を記載した書面等、控除を受けるために詳細な準備が必要となります。しかも、原則として死亡時から9か月以内に申告をする必要があり、それを過ぎるとペナルティが課されてしまいます。
そこで実際に申告をする際には、法務・税務の専門家との相談、連携をお勧めします。弊所の方で日米租税条約による遺産税申告についてサポートをさせて頂くことが可能です。米国に不動産や預金をお持ちの方は、ぜひご自身のケースで基礎控除額がいくらになるか、それを超える資産を米国に保有していないかをチェックしてみてください。特に、ご高齢の方は、アメリカの遺産税に備えた取り組みを今から検討されることをお勧めします。
アメリカの遺産に日本の相続税も適用される
以上、アメリカの遺産税について述べましたが、アメリカの遺産について日本の相続税もかかってくることに注意が必要です。日本に居住している日本人が、アメリカ国内にある遺産を相続したとしても、日本で相続税を納付する必要があるのです。
日本の相続税は、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10か月以内に納付する義務があります。しかも、現金による一括での納付が求められるところ、アメリカでの相続手続が10か月では終わらないため、相続税の原資を他で調達をしないといけないケースが見受けられます。相続税の原資が用意できず納付ができないと、その期限が守れないと延滞税等のペナルティを受けることになります。
そのため、アメリカの遺産を相続される方は、国際税務に詳しい税理士等に相談をして、できる限りペナルティがかからないよう相続税申告の準備を早く進めていかれることをお勧めします。弊所では、案件に応じて多くの税理士と連携の上、相続税対策についてもアドバイスをさせて頂いております。