【基礎編】今さら聞けない?アメリカ不動産の相続手続、プロべートとは?
2023.2.13 国際相続
アメリカ不動産を所有されている方全てに起こりうる話、それは所有者が亡くなること、つまり相続です。これまで弊所ブログではアメリカ不動産の相続手続について何度か取り上げてきていますが、基本的なところを今一度知りたいという方のために、改めてお話をさせて頂きます。
本日お話しする項目:
1 日本とアメリカの相続制度の違い
2 アメリカのプロベートの概要、留意点
3 プロベートを回避できる方法、手続
1 日本とアメリカの相続制度の違い
相続というと、日本では相続人間で話し合いをして、誰がどの遺産を取得するかを決めますよね。決めたら、遺産分割協議書に全相続人が押印をします。この遺産分割協議書等を用いて、不動産の相続登記がなされます。このプロセスにおいては、裁判所は介さず、あくまで相続人間の話し合いだけで相続手続が終了する点に特徴があります。
一方、アメリカの相続では、相続人間の話し合いで勝手に遺産を分配することはできず、裁判所の監督の下で、遺産の確定、負債の弁済、相続人への分配がされます。これをプロベートといい、英米法体系の国で広く採用されている相続手続です。
2 アメリカのプロベートの概要、留意点
このプロベートには、いくつか留意点があります。
まず、プロベートは裁判手続になりますので、現地弁護士を起用するのが通常ですが、アメリカの弁護士の費用は決して安くはありません。州によって弁護士費用が遺産の何%といった形で決まっているところもあれば、タイムチャージ(1時間当たりいくらという形で稼働した分だけ請求するパターン)で受任をする弁護士もいます。弁護士費用は、最終的には遺産から支払えばいいのですが、プロベートが続いている間、相続人がタイムチャージで稼働する弁護士の費用を支払わなければいけないこともあります。
また、プロベートは時間がかかるということにも注意すべきです。プロベートの申立を裁判所に行うと、裁判所は、遺産の調査等を行う人格代表者(Personal Representative、PR)を選任しますが、このPRが選任され実際に遺産の調査を行ったりするまでに時間がかかります。そして、PRは負債の調査も行うのですが、遺産から負債・税金の弁済を行い、相続人に分配できるという段階になるまでも、やはり時間がかかります。案件によっては2~3年かかることもあります。このプロベートが続いている間は、相続人が遺産を受け取ることはできませんので、例えば相続人が遺産を使いたいと思ってもそれはできません。また、日本にも遺産があり、日本で相続税が発生する場合であっても、プロベートが続いている間、相続人はアメリカの遺産を納税原資に使うことはできません。
3 プロベートを回避できる方法、手続
このようにプロベートはデメリットがある手続きと言わざるを得ません。そのため、アメリカではプロベートを回避するための手続きがいくつも用意されていますのでご紹介します。
(1) TODDまたはPOD
まず、受益者(Beneficiary)の指定を生前に行うことでプロベートを回避できる手続があります。具体的には、不動産については死亡時譲渡証書(Transfer on death deed, TODD)、銀行口座・証券口座については死亡時支払(Payable on death, POD)という手続きがそれぞれ用意されています。自分が死亡した際にはこの者に所有権を譲渡する、ということを定めておくことで、ご本人が亡くなられたときに、受益者が、煩雑なプロベート手続きを経ずに不動産や口座を承継することができます。TODDであれば所有する不動産を管轄する郡(County)に、PODであれば銀行・証券会社に、それぞれ書面の提出を行うだけで手続は完了です。
TODDやPODは、ご本人が亡くなるまでは所有権関係について何らの変化はなく、ご本人の所有であることには変わりません。また、一度手続を完了した後に、気が変わって受益者を変更したいという時も、同じ手続きをもう一度行えば変更もできます。
ただし、よく勘違いをされる方がいるのですが、このTODDやPODにより節税が実現できるものではありません。これらは、あくまでプロベートという煩雑な裁判所手続を回避するための手続きであり、アメリカの遺産税(連邦法又は州法)がかかるかどうか、または日米租税条約による控除の適用の有無、そのための手続き等については、別途検討が必要ですのでご留意頂ければと思います。
(2) リビングトラスト(Living trust)
アメリカの州によっては、不動産に関するTODDが用意されていない州もあります。そのような州で不動産をお持ちの方に特にご検討いただきたいのが、リビングトラスト(Living trust)です。リビングトラストは、生前の間はご本人がトラストの設立者(Settlor)及び受託者(Trustee)となり、引き続き資産の所有者として運用、管理、処分を行うことができます。そして、ご本人が亡くなった時に、予め定めた後任受託者(Successor trustee)が、プロベートを経ることなく、受益者(Beneficiary)に遺産を承継させることができます。リビングトラストは、複数の不動産と銀行口座をまとめて一括で管理できることにもメリットがあります。
ただし、この後任受託者となる方は、通常はアメリカに居住している方またはトラスティ業者が務めることが一般的です。日本に住んでいる英語に不慣れな方が後任受託者になることは好ましくありません。そのため、リビングトラストを選択される際は、適切な後任受託者を事前に用意できるかどうかを、慎重に検討されることをお勧めしています。
(3) 共同所有
リビングトラストは、TODDやPODと比べて手続が複雑なものであることは否めません。そこで、不動産を購入するときや銀行口座を開設する時点で、例えばご夫婦共同にすることでプロベートを回避する方法も考えられます。
不動産では、2人で購入をして、その後1人が亡くなった場合に、生存している方が完全な所有権を承継できる所有形態があります。州により呼び方が異なりますが、Joint Tenancy やTenancy by the Entirety with the Right of Survivorshipといいます。この所有形態は、日本でいう共有の状態に、生存者取得権(Right of Survivorship)が付帯しているものと考えるとイメージがつきやすいのではないかと思います。
また、銀行口座であれば、2人の共同口座(Joint account)として開設して、同じく生存者取得権が付いた形にすれば、たとえ1人が亡くなっても、もう1人はプロベートを経ずに、単独の所有者として引き続き口座を保有することができます。
ただし、不動産購入後または銀行口座開設後に共同にすると、後から入ってきた方への贈与税が課されるリスクがあります。そのため、この方法を選択する場合は、不動産購入時または銀行口座開設時にされることを推奨しています。
以上、アメリカのプロベートという日本では見慣れない相続手続きがあること、プロベートは複雑で時間もお金もかかること、そのためプロベートを回避するための法的手続きが推奨されること、をご説明させていただきました。アメリカに資産をお持ちの方は、ぜひ万一の時のための手当てを今のうちにされてはいかがでしょうか。それが、残されたご家族のためにもなるということを最後にお伝えさせて頂きます。