アメリカ裁判記録に見るゴーン逃亡劇
2020.5.21 一般
“米当局は20日、日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告の国外逃亡を手助けしたとされる3人のうち2人を、東部マサチューセッツ州で逮捕したと発表”
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59362200Q0A520C2CC1000/
この事件が係属しているマサチューセッツ州連邦地裁の事件記録(Public Access to Court Electronic Records、PACER)にアクセスしてみました。
※アメリカの進行中の事件記録は、誰でもインターネットからアクセスしてダウンロードもすることができます(有料)。
アメリカ政府側は、逮捕当日の5月20日に、保釈を認めるべきではないと主張しました(Motion for detention)。
ここに、ゴーン氏逃亡から関与者逮捕までのリアルな経緯が書かれていましたのでご紹介します(もちろんアメリカ政府側の主張なので、真実かはわかりません)。
1 アメリカ政府の主張する逮捕までの経緯
Michael Taylor、息子のPeter Taylorは、2019年7月、8月、12月に日本に来ている。Peterは少なくとも7回ゴーンに会った。
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Michael Taylor、George Antoine Zayekは、2019年12月29日午前、ドバイからプライベートジェット機で関空に到着。2つの大きな箱を携えて、入国検査時には「音楽家です」と言っていた。
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その後、両氏は、関空のスターゲイトホテルにチェックインし、箱を保管。東京に移動し、ゴーンと合流。3人は関空へ移動し、同日夜、プライベートジェット機でトルコ(その後ベイルート)へ出国。この時、ゴーンは2つのうちの1つの箱に入っていたが、検査されなかった。
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2019年12月31日、ゴーンは自身がベイルートにいることを発表
2020年1月30日、日本は、犯人隠避等の罪で日本の裁判所に逮捕状請求
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2020年2月16日、Michaelがドバイからボストンに移動。日本はアメリカに同氏の逮捕を要求
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2020年5月6日、マサチューセッツ州連邦地裁は、同氏の逮捕状を発付
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アメリカ政府は、Peterが、2020年5月20日ボストン発、ベイルート行きのフライトを予約したことを知る
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2020年5月20日、PeterとMichael の2人を逮捕
2 犯罪人引き渡し条約の実現なるか?
以上の経緯を前提に、アメリカ政府は、連邦地裁に対し、日米犯罪人引渡し条約による解決が済むまで、逮捕した被疑者の保釈を認めるべきではないと主張をしています。
犯罪人引き渡し条約は、本件で言えば、日本がアメリカに対し、日本の刑法等に基づいて日本の裁判所で審判を行うため、被疑者をアメリカから日本に引き渡すよう求められる手続きです。
日本は、犯罪人引き渡し条約を、アメリカと韓国とのみ締結しているので、被疑者がレバノンにいる間は、レバノンに引き渡しを求めることはできません。
今回、被疑者が2月16日にドバイからボストンに移動したのを契機に、日本はアメリカとの条約に基づく引き渡しの実現を図るべく、アメリカに逮捕の要請をしていったものと推察されます。
過去にも、アメリカにいる法人税法違反事件の逃亡被疑者を日本に引き渡してもらったケースがあるので、今回も同様に引き渡しが実現できるか注目されます。
補足ですが、今回のアメリカ政府の主張面では、被疑者の逮捕勾留により、COVID-19つまり新型コロナウィルス感染のリスクが考えられますが、それについても詳細に反論をしているのが興味深いです。
※アメリカでは、囚人を刑務所に入れておくことで感染が拡大するということで、刑期満了を待たずに仮釈放がされています。日本ではあまり考えられませんね。。